意外な犠牲者
貰うべき残業代を請求することをしなくなった。
そのことに最初に感づいたのは家族だった。
奥さんに給料明細を見せれば、毎日遅いのに給料が低い(残業代が少ないので)ことを疑問に思われる。
案の定そんな質問が来たが適当にはぐらかしていた。
そんなことが数回続いて、奥さんもサービス残業をするハメになっているのだと感づいたのだろう。
それから同様の質問が来ることが無くなった。
その代わりアルパパを心配するような言動が多くなった。
気を遣わせていることに耐えられなくなって本当のことを言った。
「あえて残業を一定時間以上付けていない。自分の能力が低いからしょうがないんだよ」
その発言に奥さんはショックを受けていた。
私が奥さんに話していた仕事の状況を聞く限りは、単純に仕事量が多いことが明白だったからだ。
上司から
「アルパパが未熟だから残業が多い」
と言われていること。
「残業を減らすために自分で考えろ」
と言われ上司はそれ以上のことはしようとしないこと。
そして周りの上司達もみんな同じように残業を付けていないこと。
それも伝えた。
奥さんはしばらく沈黙したあとこう言ったのだ。
「転職すれば?」
「あなたは自分を犠牲にすれば良いって思っているんでしょ?」
「毎日帰ってきて寝るだけの生活してるけどさ、そのせいで土日も眠い眠いってずっと寝てるし。」
「平日の夜だって土日だってもっと余裕があったら家族で一緒に過ごす時間増やしたいんだよ?」
「それも生活のためにお金貰えるなら我慢できるけどさ、残業代もらえないなら意味ないじゃん・・・」
「結果的に私たち家族を犠牲にしているんだよ?」
そう言い終わったあと、奥さんは震えていた。
でも私はすぐにこう言い返した。
「でもそんな簡単に転職出来ないし、今俺が抜けたらチームは回らないから無理だな。」
この日はこれ以上のことは話さなかった。
心の中では「そんな簡単に転職出来たらするわ!」と思っていた。
正直この状況はよろしくない。
それでもアルパパは自分に言い聞かせていた。
「大した問題ではない。」
「残業代も出ない訳ではない。」
(全て申告できていないが)
「ボーナスも少ないけど出る。」
「この会社よりもっと悲惨な会社はいくらでもある。」
「これぐらいのことは我慢しなければいけない。」
IT社畜のレールの上を順調に進むアルパパであった。
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